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国を去った男(2001年2月2日)

自分の野望のため、もしくは劣等感の反動として、その男はがむしゃらに働いた。

客観的に見れば、押しの強さと声の大きさしか見るべきところはなかったのだが、
そのことに気付くほどの冷静さや明晰さは持ち合わせてはいなかった。
ある種の混乱期においては、声の大きな者が世を平定することがあるという
事実も理解していなかった。
混乱期の消去法的な選択によって、その男は王位への階段を登りはじめた。
もっともその階段は、王位には続いていない単なる踏み台に過ぎなかった。
しかし、男はその事実に気付くことはなかった。

あるいは心のどこかにその危惧はあったのかもしれない。
だからと言って、今まで登ってきた階段を引き返すことなど考えられなかった。
ましてや飛び降りるなんて。男の選択肢には、前を見て進むことしかなかった。

自分が出した結果が何なのかを明確に説明できないまま、自分は結果を出せる
人間だと誤解した(それはおそらく致命的な誤解だ)。
自分を頂点とする王国を作るために、反発する勢力を封じ込めた。
ある者は国外に追放し、ある者には餌のニンジンをぶら下げて飼い馴らした。

必然的に周囲にはイエスマンが集った。
イエスと言っていれば取り立ててもらえるし、ノーと言えば国外追放なのだ。
裸の王様の例を見るまでもなく、男は客観的な目から遠く離れていった。

民衆の大部分は、男を権力を目指す暴君だと見ていた。
しかし謀反を起こせば斬りつけられることも承知していたから、目立った動きは
起こさなかった。必然的に国は混迷を極めた。

唯一の救いは、国王の聡明さを民衆の大部分が信じていたことだ。
常にベストの行動を取るとは言い切れないし、場合によっては、決断に時間が
掛かり過ぎるようにも見えた。しかし一番大切なポイントは外さないと思っていた。
少なくとも次の国王に男を選ぶようなことはないと信じていた。

ある日、男は国王に呼ばれ、国を出るように通告された。
男は驚愕した。国王の言葉を信じられなかった。自分は国王に信頼されていると
思っていたし、もちろん次の国王は自分だという自負もあった。

国王は男に説いた。
この国にいても国王になるチャンスはないと。
その国なら国王になる可能性があると。
その国から強い要請があったと。(それは事実ではなく国王の気遣いだ)

男は納得できなかったが、結局は受け入れざるを得なかった。
国王はすべての手配を完了していたし、国外追放ではなく、その国に望まれて
やむなく出国させるというシナリオが用意されていたからだ。

男が追放されるという噂は国中に広まった。
表立って話題にするわけにはいかなかったが、民衆の顔は一様に明るくなった。
噂が本当かどうかを確認するため、あちこちで小さな会合が開かれた。

数日後、男は民衆を集めて、国を去ることを正式に発表した。
もちろんほとんどの民衆はすでに事情を知っていた。

取り巻きのイエスマンたちは、目立たないように隅っこで小さくなっていた。
いつもなら最前列の真ん中を占拠して、スタンディングオベーションするのに。
一緒に国を出ないかと男に誘われることを恐れていたのだ。
沈み行く船の船員たちは、死ぬのは船長一人で十分だと思っていた。

あちこちで祝宴が開催された。
久しぶりに見る民衆の心からの笑顔。

もちろんこの国には他の問題もある。すべての原因が男にあった訳ではない。
取り巻きから処刑される者が出るかもしれないし、同じように国外追放される
者が出るかもしれない。潜在している別の混乱が顕在化するかもしれない。

しかし、必ずや国は活気を取り戻し、新たな繁栄がもたらされるだろう。
民衆は今回の件で確信したからだ。お天道様は必ず見ている、と。

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